社長ブログ
新しい10年の始まりで、東京オリンピック開催の年。
2020年は色々な意味で大きな節目の年ですが、デジタルマーケティングやCRMの領域でも大きな変化の年になりそうです。
最も大きなインパクトがあるのは個人データを取り巻く環境の変化でしょう。
今年改正予定 個人情報保護法はこう変わる
少し細かくなりますが、まず今年予定されている個人情報保護法改正に関する現状を詳しく見ておきたいと思います。
昨年11月29日、個人情報保護委員会は2020年の個人情報保護法の改正に向けて「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直し 制度改正大綱(骨子)」(以下「骨子」)を公表しました。
https://www.ppc.go.jp/news/press/2019/20191129/
今後この骨子を基にパブリックコメントを経た上で、今年中に通常国会への改正法案提出を目指す予定とされています。
骨子では「Ⅰ.個人データに関する個人の権利の在り方」の中で、個人データ利用の停止、消去などの請求をしやすくし、デジタル形式での情報開示も請求できるようにする、また6か月以内に消去するデータも保有個人データに含むなど個人の権利を拡充し、企業に対応を求める内容が挙げられています。
企業のペナルティについても、「Ⅴ.ペナルティの在り方」で重科の導入を含めて必要に応じた見直しを行うとしています。
さらに骨子の中には「提供元では個人データに該当しないものの、提供先において個人データになることが明らかな情報について、 個人データの第三者提供を制限する規律を適用する」という少し分かりにくい一文があります。
同じく昨年11月25日に開催された第127回 個人情報保護委員会において配布された資料「資料1 個人情報保護を巡る国内外の動向」のP52,53を読むと、この一文がcookie IDの第三者提供の制限を念頭に置いたものであることがよく分かります。
https://www.ppc.go.jp/aboutus/minutes/2019/20191125/
一方で、昨年10月29日の朝日新聞の報道によると、公正取引委員会が個人に紐づくcookie情報やスマホ位置情報などの同意のない収集について、独占禁止法の観点から規制を検討しているという動きもあるようです。
プライバシー保護に関しては、EUでは2018年にGDPRが、米国ではまさに今年1月1日にCCPA(California Consumer Privacy Act:カリフォルニア消費者プライバシー法)が施行されました。内容に違いはありますが、いずれも個人の権利を大幅に強化し、企業にとっては負担が大きく厳しい内容です。
まだ具体的な内容については予断を許しませんが、日本でも個人情報保護法の改正などによって個人データに関する個人の権利が拡大し、企業側により透明で厳格な対応が求められるようになることは間違いありません。
それによって個人データの活用を前提とするデジタルマーケティングやCRMは大きな影響を受けることになるでしょう。
本質的な課題は「企業と個人の関係性の変化」への対応
しかし本質的な課題は法規制への対応ではありません。
問題は一連の法規制を生んだ自由主義世界全体のトレンドともいうべき、企業と個人の関係性の変化にどう対応するかです。
そのトレンドは「企業から個人への主導権のシフト」と言い表すことができるかもしれません。大手プラットフォーマーに代表されるIT武装した企業が、個人に対して強くなり過ぎたことに対する揺り戻しとも言えるでしょう。
インターネットの普及によって企業と個人の情報格差がなくなり、ソーシャルメディアの登場によって個人の情報発信力が企業を上回るようになり、さらに企業がその社会的な責任を強く問われるようになった今、企業はデータの活用に関してもユーザー一人一人と真摯に向き合って関係を築く必要があります。
今年の法改正は日本企業にとってそのための具体的なアクションをとる大きなきっかけになりそうです。
「顧客体験」をバズワードに終わらせないために
数年前からデジタルマーケティングのカンファレンスなどでは「マーケティングの主導権は企業から顧客に移った」と言われ、「顧客中心」「顧客体験」といった言葉が頻繁に使われるようになり、その文脈の中で顧客ごとにコミュニケーションを最適化するOne-to-Oneや、顧客との関係性を築く概念としてのCRMが見直されるようになりました。
MAに代表されるような、データに基づいて最適な顧客体験を提供するためのマーケティングテクノロジーが急速に進化し、日本でも導入が進みました。
しかし実際のCRMの現場で、本当にお客様の視点から顧客体験を設計し運用しているという例はまだあまり多くないように思います。
例えばメール会員の登録画面で約束される「お客様ごとに最適な役立つ・お得な情報の提供」とは、多くの場合いまだに「顧客ごとのLTV(という名の年間売上)最大化を狙ったターゲティングメールの配信」のことであり、メールマーケティングの世界ではユーザーが受け取るプロモーションメールの通数は相変わらず増える一方で、メールの開封率は低下を続けてきました。
今、企業サイトで新規会員登録する際に顧客がメールの受信を許諾するパーミッション取得率は(ECのセール情報などメール限定の明確なベネフィットがなければ)せいぜい50%程度です。ユーザーは「きっと不要なメールを山のように送りつけられる」と思っていて、企業のことを頭から信用していないのです。
あなたのお客様は個人データの活用を喜んでOKしてくれるだろうか
しかし今後顧客データは、IoT環境で生まれる膨大なデータを活用するデータエコノミーにおいて競争を勝ち抜くための企業戦略の中核となり、「データ資本主義」とまで言われる重要な経営資源となります。
複数の企業が提携してエコシステムを形成し付加価値の高いサービスを提供するにも、顧客データを連携する必要があります。
例えばA社がB社グループと提携して新たなマーケティング活動を展開することにします。新規顧客基盤も一気に拡がり、B社のデータと連携すれば顧客の家族構成も分かってより精緻なターゲティングもできそうです。
A社は顧客に対して、例えば『ログイン時にB社の会員IDをご登録いただければ、B社のお客様データを連携して、役立つ・お得なサービスや情報をお届けします。今ならボーナスポイントをプレゼント!』とデータ連携をお願いすることになります。
その時、お客様は喜んで登録してくれるでしょうか?
もちろんサービスの内容にもよりますが、「一体何のためにデータを使われるのか気味が悪い」「家族にまで販促メールが届くだけかも」と思われれば、多少のベネフィットでは登録してくれないでしょう。
顧客データを活かしたA社のサービスがとても便利で信頼関係もできていれば、「もっと便利になりそう」と進んで登録してくれるかもしれません。
ただその前に、そもそもその重要なA社からのメッセージはお客様にきちんと届くでしょうか?
2020年 CRMの真価が問われる
今後そう遠くない将来、データ活用によって顧客にとって本当に必要な、役立つ、喜ばれるサービスを提供できなければ、企業は顧客の個人データを利用する許諾を得られなくなる(あるいは高いコストを支払わなければ利用できなくなる)と考えておいた方がいいでしょう。
いくらシステムやデータベースを整備しても、そもそも顧客と良好な関係を築くことができずデータを活用することができなければ、データドリブンマーケティングなど絵に描いた餅に過ぎません。
2020年は顧客の個人情報やパーミッションの取得方法、それに対して提供する情報やサービスのあり方を大きく見直す年になるはずです。
それはマーケティングやCRMというよりもDXにおける重要課題として企業横断で取り組むテーマになるかもしれません。
しかし重要なのは実際にお客様と接するタッチポイントで具体的に何をすべきか、何ができるかであり、実行を伴わないコンセプトやポンチ絵ではありません。
そこでこそ、これまでのCRMにおける取り組みの真価が問われるのではないかと思います。
この記事を書いた人
岡本泰治 株式会社ディレクタス 代表取締役
京都大学卒業後、株式会社リクルートを経て1993年ディレクタスを設立。
航空会社や自動車メーカーなど大手企業のEメールマーケティング戦略を立案・実行し、近年ではマーケティングオートメーション(MA)の導入支援やシナリオ設計、MA導入後のOne-to-Oneクロスチャネル展開設計など、常に最新のソリューションと長年培ってきたノウハウをもとにOne-to-Oneマーケティングを推進。